有給休暇の申し出はいつまでに行わなければならないか

 ある従業員が始業前に「今日は有給にしてほしい」という電話がありました。就業規則では、所属長に前日までに申し出ることになっています。この申し出を拒否して欠勤とすることはできますか?




 昔から裁判で争われる問題ですので、ここの事件により判断が異なるため一義的な回答はできませんが、大きなポイントが2つあると思います。


 労働者は、労働基準法で原則6か月以上の継続勤務と8割出勤という要件を満たせば、一定日数の年次有給休暇権を取得します。したがって、年休の取得について使用者の承認という観念を容れる余地はないとされています(林野庁白石営林署事件最二小判昭48.3.2)。ただし、労働者が具体的に年休を取得する時季を指定した場合(時季指定権の行使)に、そのとおりに年休を取得すると事業の正常な運営が妨げられる場合には、使用者は時季を変更する権利(時季変更権)を有しています(労基法39条第4項但書)。 時季変更権といっても、使用者は代わりの年休時季を示す必要はなく、単に指定された時季の年休を拒否すれば足ります。以上のとおり、使用者による年休の「拒否」とは、法的には時季変更権の行使のことを指すのが通常です(電電公社此花電報電話局事件 最一小判昭57.3.18)。


@一定期日前までの有給休暇取得の申し出

 最高裁判所は、有給休暇取得した人の代わりの人を確保するために、就業規則で有給休暇の請求は前々日までに行うことは、労働基準法に違反せず、有効であると述べています(電電公社此花電報電話局事件)。就業規則で申し出についての定めがあり、申し出が有給休暇当日のような正常な事業運営のため人員を確保することができない申し出については、拒否することは可能でしょう。


A時季変更権の行使について

 時季変更権を行使するための要件は、労働者の指定した時季の年休取得が「事業の正常な運営を妨げる」ことです。この点の判断にあたっては、事業の内容、規模、労働者の担当業務の内容、業務の繁閑、予定された年休の日数、他の労働者の休暇との調整など諸般の事情を総合判断する必要がありますが、日常的に業務が忙しいことや慢性的に人手が足りないことだけでは、この要件は満たされないと考えられます。そう考えないと人手不足の事業場ではおよそ有給休暇が取れなくなってしまいます。 なお、指定した年休日数が多い場合、労働者側は事前の調整を要求され、それをしない場合には、使用者の裁量の余地が大きくなると解されています(時事通信者事件 最三小判平4.6.23)。また、使用者は労働者が指定した時季に有給休暇が取れるように状況に応じた配慮をすることを求められます(弘前電報電話局 最二小判昭和62.7.10)。使用者は有給休暇取得実現のために「配慮義務」を負い、この配慮を尽くさずに行った時季変更権の行使は無効となります。

 使用者がなすべき配慮の内容は様々ですが、代替要員の確保が特に重要となります(電電公社横手統制電話中継所事件 最三小判昭62.9.22では、代替要員の確保のために勤務割を変更する配慮が必要であったと判断しました)。その際には、a.年休の指定をした労働者の職務にどの程度代替性があるか、b.客観的に代替要員の確保が可能な状況にあるか、c.代替要員を確保する時間的余裕があったかなどが考慮されます。その他、代替要員は他の部署からも確保する必要があるか(業務の関連性や代行の容易さなどが考慮されるでしょう)、管理職も代替要員として考慮すべきか(管理職の職務内容や職場の慣行などが考慮されると思われます)などの問題も生じます。

 余談ですが、労働組合が行うストライキやサボタージュは一定の手続きを取れば、一斉に職務放棄をすることが可能な代わりに無給です。しかし、一斉に休暇届けを出して職場を放棄・離脱することは実質的に有給休暇という名目のストライキであり本来の有給休暇の行使ではないので、時季変更権もありえず賃金請求権がないと判断されました(林野庁白石営林署事件)。