特定の日だけ有給休暇を取る

 @医療機関です。入院病棟に常時入院患者がいるので、ローテーションで深夜勤務があります。しかし、ある看護師が深夜勤務のあるときだけ有給休暇を取得します。どうも深夜勤務を拒否するためのようです。有給休暇を拒否することはできますか?


 A当社は変形労働時間制を採用しており、勤務割で10時間勤務の日が月に数回あります。その日に有給休暇の取得の申し出が多くなり困っています。




 原則として、有給休暇はの取得には使用者の承認は必要ないと判断されており、事業の正常な運営を妨げない限り有給休暇は自由に取得できます。使用者の時季変更権を行使するためには使用者の配慮が必要です(参考ページ有給休暇を取る目的)。過去の判例では、ストライキを目的とした有給休暇の取得(林野庁白石営林署事件最二小判昭48.3.2)や、事前に有給休暇を申請していた日がストライキと重なりそのまま取得し続けて正常な業務の運営を阻害する目的で参加(国鉄津田沼電車区事件 最三小判平3.11.19)というような積極的にストライキに参加した場合に会社側の主張が認められていました。 なお、職場の時限ストと並行して行われた職場集会に参加したケースでは担当業務に事業の正常な運営を妨げておらず、勤務時間外になされた行為として正当な有給休暇の取得ではないとの会社側の主張を認めなかった例(国鉄直方自動車営業所事件 最二小判平8.9.13)があります。


 しかし、最近ではストライキ以外でも利用目的によっては有給休暇の取得が違法とされている事件があります。タクシー会社の運転手が、深夜乗務を拒否するために取った有給休暇について裁判所は、深夜乗務は深夜のタクシー不足解消や労働時間の短縮という社会的・政策的要請を理由とするものであり深夜乗務を行う必要性は高いので、深夜乗務を拒否するための有給休暇の時季指定は違法である(日本交通事件 東京高判平11.4.20)としています。 また、研修中に有給休暇を取って労組大会に参加した従業員が会社のけん責処分の無効確認を求めた訴訟で、「短期間集中的な研修中には、使用者は年休の時季を変更できる」と企業の裁量権を認める判断を示しています(日本電信電話事件 最二小判平12.3.31)。


 設問@は、採用時に深夜勤務があるという労働条件であれば、看護師の職務と日本交通事件の例と照らし合わせて有給休暇の取得を拒否することも可能ではないかと思います。設問Aのケースは、たいていの会社では有給取得時の賃金がその日1日働いていたものとみなして計算するため、勤務時間が短い日より長い日に勤務した方が有利ではないかという心理ではないかと思います。 現状、このようなケースの裁判例が見つからないので断定することはできませんが、会社側が時季変更権を行使する状況でない限り有給休暇の取得を認めざるを得ないでしょう。